悲しいときは泣けばいい
恋人が心変わりしたら
「行かないで」とすがりつけばいい
「あなたなんて いなくても大丈夫」みたいな顔を
しなくてもいい
あなたの大切な人が死んだら
気丈に振る舞わなくていい
カラカラに乾くまで
涙を流しきればいい
涙は綿毛のように胸の底をくすぐって
くしゃみのように
感情を吐き出させてくれるから
戦争で愛する人が死んだとき
「お国のため」と崇められ
泣けなかった女は
悲しみを土間に置いて
家族のために火を起こした
置き去りにされたそれは埃のように土間の隅にころがっていき
そのうち見えなくなった
流行り病で人がバタバタ死んだとき
宇宙飛行士のような格好で働いた若者は
悲しむことを忘れた
そして
ゴーグル越しのぼんやりとした視界の中
中身の見えない銀色の
納体袋のチャックを無造作に上げた
悲しいときは泣けばいい
悲しいときに泣かないと
心の中に澱ができる
それはべったりと底の方に貼り付いて
そのうち溶けない塊になる
仕事を終え 宇宙服を脱いだ若者は
ふと聞こえてきたピアノの音に誘われ 店のドアを開ける
喧騒と グラスの触れ合う音の間から聞こえるリズム
遠い昔、悲しみと抑圧から生み出された12小節の音色が
若者の胸の底の塊をそっと揺らして溶かす
ふいに若者は両手で顔を覆い 震えを帯びた息を二回 吐き出した
彼は忘れ去っていた心の温度を 取り戻したのかもしれない
このページでは、当館に設置した「ポエムポスト」に投函された詩・短歌・俳句を掲載しています。
ご来館の際には、ぜひ皆様ご投稿ください。
ポエムポスト
- 2026年02月03日
- 梅田なみ|わすれもの
- 2026年02月01日
- 絶賛絶望中|山本茂伸
- 2026年01月27日
- アイロン|葉森月子
- 2026年01月24日
- 体力の 脳筋は言う|久利摩紀子
投稿作品
絶賛絶望中|山本茂伸
よっしゃ!がんばるといって30年
もうあかんというて20年
しんぼうたまらんという思いで10年
立つ時、座るときに
あーしんどと言い続けて7年
人生後半の先細りに
俺の人生これだけかとつぶやいて
腫れた膝をなでる
みんなは人生の取説をいつ知った
誰に教えてもろた
これが不思議でしょうがない
何が違う、どこが違うと思いながら
蛍光灯から垂れている紐を引く
陽がのぼると明日が来る
お日さん見るとちょっとうれしい
それだけやけど
絶賛絶望中の俺の人生にも
お日さんはあたたかい
アイロン|葉森月子
アイロンかけは嫌いじゃない
綿のシャツが好きで
時々くしゃくしゃになったシャツにアイロンをかける
くしゃくしゃのシワが
すっと整列する感じがいい
アイロンをかける時間を持てたことが
嬉しいのかもしれない
凛とした人へ憧れる
それでも
ヨレヨレのひとへの愛は深い
己はどこまでも欲深く
全てを受け入れているという錯覚
明るい冬の午後
穴のあいたパジャマを脱ぎ捨て
アイロンのかかったシャツで出かけよう
ヨレヨレのひとへ愛を注ぎに
体力の 脳筋は言う|久利摩紀子
体力の低下は人間の劣化!!
体力の成せる技恐るべし!!
体力の欠如は情熱を奪う!!
体力の鍛錬は精神を救う!!
体力の価値を侮るなかれ!!
体力の向上に努めるべし!!
体力のオバケになりたい!!
体力の体力体力体力体力!!
幸せは5秒でいい|梅田なみ
幸せは「なる」ものじゃない
なろうとするから もがく
幸せは「手にいれる」ものでもない
手に入れようとするから 妬む
ずっと幸せでいたいと願うから 失うことに怯えて暮らすことになる
幸せは5秒でいい
私と何かの間に、溶け合って混じる5秒があればそれでいい
赤子の息遣い
湿った犬の鼻先
霜を踏みしめる音
顔を上げたあの人
瞬き2回分の時間に心を溶かされ、明日も暮らしていく
かみ様の涙|山本茂伸
虚な目をしていると蔑(ないがし)ろにされるので、大きく目を見開いた
ダッカが浮かぶ、テルアビブが浮かぶ
違う違うと、もっと大きく目を見開いた
陥落するサイゴンの映像と
枯葉剤に人が逃げ惑う
私は目を見開いていったい何を見ているのだろう
多くの英雄が独裁者となり
科学が生物の能力を奪い
薬害は教訓という言葉で飾られていた
多くを求めた若者たちの喘ぎが彼方に消え去る
軽く目を閉じて足元に目を映す
長い影と、季節のわからない風が流れる
高所に順応するように希薄な自由になれてしまった
分断と階層は自明の理という空気を共有していた
防衛のために作った盾は大きくて支えきれない
抑止のために作った矛は凶暴すぎて自身をも傷つける
虚な目をして蔑ろにされることが唯一の抵抗かもしれない
棄てられ民の光だけは感じることができる
当てもなく砂埃の中を歩いた
残照の中に川のない橋が浮かぶ
暗渠にかかる橋の欄干に
きつね顔の神様が座っていた
流れ星のように
神様の透きとおった白い頬を
輝く涙がすっと流れ落ちた
すまない、私は自由を与えたつもりだったのに
と声を詰まらせた
アリスワンダーランド|葉森月子
今日こそ歩こう!
急いで洗濯物を干して外へ出た
右へ行くか左へ行くか
おもむくままに進んでいく
大きなお屋敷の敷地に
果樹がたわわになっている
八朔、柚子、檸檬
あの大きな実は朱欒かな
ごっくんと唾液を飲み込んだ
トコトコ歩く
民家を抜けて山の方へ
まだ紅葉が残る山々は美しい
一台の車とすれ違う
あれ?と思ったらジルちゃんだ
「あら!こんなところで!!」
「今、水汲みに行ってきたんよ」
こんなところで会えるなんてなんだか嬉しい
私も安産の滝まで行って水を一口頂き帰路へ
トコトコ トコトコ
来た道を歩く
もう家がすぐのところまで来たとき
ふと壊れかけた看板が目に入った
「ため池」とある
でも池など見えない
その先に小さな道があった
こんな道知らなかった
恐る恐る進んでみる
その小さな道は木々に囲まれ
落ち葉の絨毯で覆い尽くされていた
ざくぅ ざくぅ
落ち葉を踏み締めて進むと
その先に小さな池がひっそりとあらわれた
とても穏やかな水面に気持ちよさそうに水鳥が浮かんでいた
まるで絵本の中に迷い込んだかの情景に
しばしうっとりしながらも恐怖を感じた
30年近く住んでいてなぜ気づかなかったのか?
明日はもうあの池は消えているのかもしれない
きつね顔の神さま|山本茂伸
空の青がマゼンタに濁る3月
潮騒のリズムが風に消えていく午後
私は岸壁の上から海を眺めていた。
失敗の烙印が20個溜まったので、ポイントと引き換えに絶望をもらった。
鉛色の絶望に覆われた私は、釈然としない人生という錘を足に括りつけ
紺碧の海に身を投じた。
苦しみがさり、遠のく意識の中で海を照らす光が見える
すべての音が消えさり孤独の闇に包まれていく。
手にしたものと手放したものが私を取り囲んでいる。
その時、闇の中から光が生まれた
光は形になり、神さまにと変わった。
やはり神さまはいたのか、もう死後なのか
「神さま私はどうなるのでしょうか」と呟いた。
神さまは私に手を差し伸べながら
「大きい棺と、小さい棺どっちがいい」
と軽やかな声で聞いてきたので、顔を覗きこんだ。
リリックソプラノの声を持つ神さまは
目が吊り上がったきつね顔をしていた。
本来なら「小さい棺」を頼むところだが、
死んで気が大きくなった私は、「大きい棺でお願いします」と答えた。
神さまは軽い舌打ちの後に
「大きい棺か」と言いながらクルッと後ろを向き、
しっぽを振りながら光の中に消えていってしまった。
神さまと叫びながら、手を一杯に伸ばした時、意識は闇へと溶け、
何も掴めなかった手の感触だけが残った。
とてつもない頭痛とともに瞼に熱を感じた。
「気が付かれましたか」とリリックソプラノの声がする。
聞き覚えのある声に目を向けると、白衣を纏ったキツネ顔の神さまがいた。
ビロードのような手で私の手を包んでくれた。
何故か涙が頬を伝った。全身に温かいものがこみあげてきた。
生かされていると感じた。
小さな深呼吸を一つしてから
「小さい棺を選んでいたらどうなっていたのでしょう」と聞いてみた。
ほほ笑んだ神さまは、「さあ」と首を傾げた。
「これからの私の人生はどうなるのでしょう」と聞こうとした刹那
「私にできることはここまでです」といってクルっと後ろを向き
「生きることを味わってください」と軽やかに歌い
尻尾を振って神さまは病室を出て行った。
それからキツネ顔の神さまは私の前に現れなかった。
俳句|本田伝
見上ぐれば万朶の桜雲のごと
み吉野の桜を伝ふ校歌かな
吉野川静まる淵に蝉の声
音街道秋とジヤズとに染まりけり
静かなる吉水神社に冬日差す
グルジェフとダージリン | 葉森月子
蔵の中に響くピアノの音色
頭の上から降り注ぐその音をずっと聴いていた
どこか懐かしい民族的な短調の響き
彼女はずっとグルジェフを弾いている
今日のあなたは無口な喫茶店のマスターの役
ゆっくりとお茶を淹れる
蔵の2階には若いお嬢さんが2人
ノートPCを持ち込んで静かに仕事をしている
隣のパン屋さんからは楽しげな笑い声
でも今日のあなたは無口なマスター
おしゃべりには参加しない
ただピアノの音色を聴く
拍子が変わった!
グルジェフがぐるぐると踊りだす
どこの地方の舞曲だろう?
知らないけど知っている
魂に響く音色は何か同じような色なのだと思う
とっておきの紅茶を淹れよう
ダージリンファーストフラッシュ!
紅茶を計って適温の湯をポットに注ぐ
春摘みの一番茶は少し低めの85度が適温
喫茶店をやるために買った温度設定できるケトルの出番だ
2分半蒸らしてカップへ注ぐ
春摘みの若い茶葉の香りが広がる
今度は舌で味わう
うん、想像通り
鼻の奥から喉にダージリン
耳からグルジェフ
蔵の灯り
小さな窓から見える緑
午後3時の完璧な流れ
グルジェフにはダージリンがよく似合う
モムモムのうた|久利摩紀子
イモムシ モムモム
モムモム イモムシ
モムモム モムモム
モムモム モムモム
行きたいところに
まっしぐら
モムモム モムモム
ワクワク ワクワク
何回落ちても
ムーン ムーン
上へ 上へ
ムーン ムーン
ボテッ モムモム
モムモム モムモム
ボテッ モムモム
モムモム モムモム
こっちがすっかり疲れはてた頃
ついに観念
モムモムやめて
かわいく まあるく
おさまった
そして 最後は
ネオンイエロー
とっても綺麗な
サナギになって
ある日パタパタ飛んでった



