両手をぶらぶらさせながら、公園の階段を下りていく
上着がなくて体が軽い
黄砂と花粉に濁った空で、公園を取り巻く桜はピンク色に蕾を膨らませていた
桜の梢でパーンといのちが漲っている
春はある日を境に一斉に押しかける
無限の命を引き連れて、ザワザワとやってきては
古い命を引きずり連れ去っていく
「しっ、静かに、身をひそめろ、春が来るぞ」と
ひとりごちて、腰を屈めて木陰に逃げ込んでも
数秒後には蕾を見ている私がいる
春は生死の境が近づいてくる
このタイミングを逃すものかと
達磨さんが転んだのように
私が目を瞑っている時にそっと忍びよる
季節を数えるごとに、近づくのが上手くなり
音も立てず、気配を隠して確かに近づく
帰りの階段で後ろをサッと振り返った
花は明日の雨を待って咲く準備をしている
ヒヨドリは無言で枝に止まっていた
このページでは、当館に設置した「ポエムポスト」に投函された詩・短歌・俳句を掲載しています。
ご来館の際には、ぜひ皆様ご投稿ください。
ポエムポスト
- 2026年03月19日
- 身をひそめろ、春が来る|山本茂伸
- 2026年03月18日
- 春うらら|梅田なみ
- 2026年03月06日
- でも、これしかないと、わたし | 山本茂伸
- 2026年02月16日
- 未来忌|即興演奏を主題に
投稿作品
春うらら|梅田なみ
春は怖い
伸びるぜんまい
土の中からふきのとう
同じくぞろぞろと虫 虫 虫
わらわらわら
わらわらわら
上へ上へ もっと高く
自然が騒ぎだすと
人もまた騒ぎだす
キャッキャと騒ぐ受験生
異動になった会社員
ざわざわざわ
ざわざわざわ
電車の中も落ち着かない
春の力はいつも上へと向かう
天まで突き上げ
頭打ちになった強烈なリピドーは
姿を変え禍々しくうねっていく
ひばり舞う突き抜けた空
見上げると
黒紫の渦が墨を垂らすように広がる
頬を撫でるぬるんだ風に
肌の奥がざわつく
やめて
やめて
連れてかないで
おいで
おいで
こっちはいいよ
咲狂うピンクの枝が震えるたび
風のざわめきが言葉に変わる
しにたい
たすけて
あははは
うふふふ
怖い怖い
春はずぶずぶと
土の下に沈んでいたい
でも、これしかないと、わたし | 山本茂伸
青く水気を含んだ煙が、細く空に登る
風になびきながら、大気と混ざり消えて
空がどんなに高くても、わたしはここに
真理がどんなに深くても、わたしはいるだけ
梵鐘の音も、真理を語る声明も、
深みも、高みも、言葉だと思う
角砂糖のような身体と、朝に孵化した蜉蝣の心
知り得たものはすでになく、知り得るものは遠ざかる
3000年前人は心を知り、迷い、すがった
語る人が生まれ、苦が刻まれる
ただ、生き、ただ死ぬことができない時代、心があるから
大気圏まで届く言葉の、重層的な逃れがたさ
救われるはずが、重みに耐えかねて手放す、わたしはと思う
もぎ取られるものもなくなり、体重の重さだけの重さ
軽いと感じるわたしがいて、空が見える
これで良いかどうかも、分からない
でも、これしかないと、わたし
空がどんなに高くても、わたしはここに
真理がどんなに深くても、わたしはいるだけ
未来忌|即興演奏を主題に
2月11日は吉野町公民館大ホールにて、池田克己命日記念イベント「第2回未来忌」でした。
「未来忌」で自作詩を朗読したメンバーが、最後のコンサートで演奏されたジャズピアニスト柴田コウメイの即興演奏をお題として詩を制作、ポエムポストに投稿しました。
順番は出演順です。
葉森月子|舞台の神さま
朝、会場に行くと
舞台にポスターが投影されていた
かっこいいー!
本番だ!!
そう!今日は本番なのだ!
舞台の飾り付けを手伝う
受付の準備する
舞台慣れしたメンバーたちが
テキパキと動く
小道具をバミり導線を確認し
自然とリハが始まる
ピアノとマイクのバランスを聞く
全体の絵を引きでみる
開演間際にさっと着替えて
ウィッグをパッとつけて
「皆さん開演前に記念撮影しまーす」と
言って回るプロ過ぎるMC
さぁ開演
昔は出待ちの舞台裏のなんとも言えない空気感が吐きそうなくらい怖くて
舞台にたどり着けない夢を何度もみた
でも今はそんな出待ちのも楽しめる
仲間と写真を撮る余裕もある
小道具に躓いた彼女のアクシデントさえ
みんなが羨ましがる
全てを終えた楽屋は
お菓子や食べかけのお弁当で散らかっているが
みんなの心は1つになっていた
舞台には魔物がいる
そして神様もいる
舞台の神様に
ありがとうございましたと
心の中でつぶやいた
久利摩紀子|2026.2.11
饒舌に運ばれる空気に
ル・シーフルの涙を垂らし
純粋な声が四角を回る
曇天のメランコリーが
涙腺の蓋を開け
龍門に生まれた詩人を偲び
嘯くことのない数多の才知
詩も言葉も
バカの前では
違わず等しい
言葉の塊は
宇宙から飛んできたのだろうか?
メシエにもわからない
異次元の銀河を私達は聴いた
ピアニストを撃たないでください!
梅田なみ|柴田コウメイ氏の即興演奏に寄せて
春を告げる祭の日
山から下りてきた霧が
煙のように町を包む
屋台の輪郭は滲み
子供のはしゃぐ声が残響のように広がる
白い袖の少女が振る鈴が空気を震わせ
霧が集まり一粒の雨に変わる
雨に紛れて 誰かの指先がアンダンテを刻んでいる
紅白の屋根に落ちる雫とリズムが重なっていく
雨は私の服を濡らし
身体に沁みこみ
皮膚の奥に入り込み
胸の底の渇いた砂に届いた
私は目を閉じ、渇きに沁みこむ水の感触を ゆっくりかみしめる
やがて雨は次第に強さを増し
静かだった音色もうねるように波打ち
転がる音の粒が 滴る雨と絡み合う
アレグロアッサンブレ
髪に 額に 唇に
打ちつける音の粒と雨を 全身で受け止めると
瞼の奥がつと熱くなり 温かな塊が目の奥から喉へと落ちていき 胸の砂を押し出す
濁った生ぬるい泥水が足先を伝い
道路に流れたそれはすぐ 弾けた雨粒とともに消えていった
春を告げる祭りの日
町を洗い流した雨は 私の心も洗っていった
山本茂伸|白い駅で
用事を思い出せないまま私は駅に向かっていた
急がないと間に合わないことだけを握りしめて
海に近い駅には、小さな広場があって
自販機も、バケツも、水道から滴る水も
午後の光に包まれ揺れていた
冬の終わりの光は強い影を投げだし
広場の片隅に白い死を焼き付けていた
姿の見えない子供たちの声が駅を取り巻いている
微睡と混沌を背中に感じ、今がわからなくなった
無人の駅舎はとても白く滲んでいて
今を生きる人の影はなく
ベンチから見える窓には
オリーブの葉陰が揺れていた
目的地を見失った私は
適当な切符を買って、昏い改札を抜けた
海の見えるプラットフォームには
ただ遠い風が流れていた
線路が平行に曲がりながら海に近づいていく
単線が山陰に消えるところにぽっかりと雲が浮かんでいる
雲の下には雨のベールがかかり、プリズムのように光った
雨雲が近づいて来る
風が変わり、海鳥の声が消えた
「ペトリコールね」とささやく声が、耳元に温かい
確かに知っているが、体温しか思い出せないあなたがいる
雨が静かなざわめきが連れてきた
足元に撥ねる雨は光に踊る
冬の終わりの雨が二人を包んだ
女神の舌のように柔らかく冷たい雨が
耳の後ろをながれ、首筋を濡らす
光の粒が、駅に、屋根に、草花に飛び散っていく
光ながら落ちてくる雨はいつしか祝祭の雨に変わっていた
「もう苦しまなくていいのよ」
黒衣のあなたは雨と光のシルエットの中に、美しい輪郭を表した
暗雲に覆われ日が陰ると、闇が光にかわった
雨のリズムが大きく早くなり陶酔が二人を包み込む
重なるリズムに呼び出されるように夜の光が現れた
あたり一面に松明が焚かれ
ディオニューソスの祭りが始まる
雨音は踊りのリズムとなり陶酔へと二人を導いた
葡萄酒が供され、女たちは酩酊の中で踊り続けている
あなたの姿態は闇で輝き、人生の楽しさを味わっていた
この祭りではすべてが許されている
死と狂気と豊穣の祭り
あなたは私を踊りの輪の中に導いた
あなたの呼吸は早く、なまめかしい
汗ばんだ手が私を求めている
すべてを捨て一緒に踊って欲しいと
死と再生の踊りを
何故かわからず私はためらい
退屈な日常へと後ずさった
あなたの手が離れていく
軽やかなリズムが消えていく
闇が消え光があたりに満ち始める
頬を伝う雨、指先から落ちる雨が光を帯びる
雨雲はゆっくりと次の山に向かっていく
私は一人水平線に消える船を見ていた
何を捨てられないのか、なぜ捨てられないのか
飽きてしまった人生をまた生きていくのか
雨雲は町を潤すために山の方へと向かい
線路の軋むことがして、小さな電車が近づいてきた
今までに見たことのない青空が見えた
しばた友紀|傘
私の底には1枚の葉
流線型は550ミリ
葉を拾う
枝を握れば私の傘だ
何の役に立つものか
長靴は黄色
子供の姿をした何かが駆け回る
泥をはね
水面の空を蹴る
同じ傘をさしている
水源は雨
鼻欠け地蔵に泥団子
沖を漂う船は疫病
入江の町は呪詛の蔓延
肥ツボに落ちた私は
肥タンゴ
タンゴと呼ぶ声が聞こえ
梅田なみ|わすれもの
悲しいときは泣けばいい
恋人が心変わりしたら
「行かないで」とすがりつけばいい
「あなたなんて いなくても大丈夫」みたいな顔を
しなくてもいい
あなたの大切な人が死んだら
気丈に振る舞わなくていい
カラカラに乾くまで
涙を流しきればいい
涙は綿毛のように胸の底をくすぐって
くしゃみのように
感情を吐き出させてくれるから
戦争で愛する人が死んだとき
「お国のため」と崇められ
泣けなかった女は
悲しみを土間に置いて
家族のために火を起こした
置き去りにされたそれは埃のように土間の隅にころがっていき
そのうち見えなくなった
流行り病で人がバタバタ死んだとき
宇宙飛行士のような格好で働いた若者は
悲しむことを忘れた
そして
ゴーグル越しのぼんやりとした視界の中
中身の見えない銀色の
納体袋のチャックを無造作に上げた
悲しいときは泣けばいい
悲しいときに泣かないと
心の中に澱ができる
それはべったりと底の方に貼り付いて
そのうち溶けない塊になる
仕事を終え 宇宙服を脱いだ若者は
ふと聞こえてきたピアノの音に誘われ 店のドアを開ける
喧騒と グラスの触れ合う音の間から聞こえるリズム
遠い昔、悲しみと抑圧から生み出された12小節の音色が
若者の胸の底の塊をそっと揺らして溶かす
ふいに若者は両手で顔を覆い 震えを帯びた息を二回 吐き出した
彼は忘れ去っていた心の温度を 取り戻したのかもしれない
絶賛絶望中|山本茂伸
よっしゃ!がんばるといって30年
もうあかんというて20年
しんぼうたまらんという思いで10年
立つ時、座るときに
あーしんどと言い続けて7年
人生後半の先細りに
俺の人生これだけかとつぶやいて
腫れた膝をなでる
みんなは人生の取説をいつ知った
誰に教えてもろた
これが不思議でしょうがない
何が違う、どこが違うと思いながら
蛍光灯から垂れている紐を引く
陽がのぼると明日が来る
お日さん見るとちょっとうれしい
それだけやけど
絶賛絶望中の俺の人生にも
お日さんはあたたかい
アイロン|葉森月子
アイロンかけは嫌いじゃない
綿のシャツが好きで
時々くしゃくしゃになったシャツにアイロンをかける
くしゃくしゃのシワが
すっと整列する感じがいい
アイロンをかける時間を持てたことが
嬉しいのかもしれない
凛とした人へ憧れる
それでも
ヨレヨレのひとへの愛は深い
己はどこまでも欲深く
全てを受け入れているという錯覚
明るい冬の午後
穴のあいたパジャマを脱ぎ捨て
アイロンのかかったシャツで出かけよう
ヨレヨレのひとへ愛を注ぎに
体力の 脳筋は言う|久利摩紀子
体力の低下は人間の劣化!!
体力の成せる技恐るべし!!
体力の欠如は情熱を奪う!!
体力の鍛錬は精神を救う!!
体力の価値を侮るなかれ!!
体力の向上に努めるべし!!
体力のオバケになりたい!!
体力の体力体力体力体力!!
幸せは5秒でいい|梅田なみ
幸せは「なる」ものじゃない
なろうとするから もがく
幸せは「手にいれる」ものでもない
手に入れようとするから 妬む
ずっと幸せでいたいと願うから 失うことに怯えて暮らすことになる
幸せは5秒でいい
私と何かの間に、溶け合って混じる5秒があればそれでいい
赤子の息遣い
湿った犬の鼻先
霜を踏みしめる音
顔を上げたあの人
瞬き2回分の時間に心を溶かされ、明日も暮らしていく
かみ様の涙|山本茂伸
虚な目をしていると蔑(ないがし)ろにされるので、大きく目を見開いた
ダッカが浮かぶ、テルアビブが浮かぶ
違う違うと、もっと大きく目を見開いた
陥落するサイゴンの映像と
枯葉剤に人が逃げ惑う
私は目を見開いていったい何を見ているのだろう
多くの英雄が独裁者となり
科学が生物の能力を奪い
薬害は教訓という言葉で飾られていた
多くを求めた若者たちの喘ぎが彼方に消え去る
軽く目を閉じて足元に目を映す
長い影と、季節のわからない風が流れる
高所に順応するように希薄な自由になれてしまった
分断と階層は自明の理という空気を共有していた
防衛のために作った盾は大きくて支えきれない
抑止のために作った矛は凶暴すぎて自身をも傷つける
虚な目をして蔑ろにされることが唯一の抵抗かもしれない
棄てられ民の光だけは感じることができる
当てもなく砂埃の中を歩いた
残照の中に川のない橋が浮かぶ
暗渠にかかる橋の欄干に
きつね顔の神様が座っていた
流れ星のように
神様の透きとおった白い頬を
輝く涙がすっと流れ落ちた
すまない、私は自由を与えたつもりだったのに
と声を詰まらせた
アリスワンダーランド|葉森月子
今日こそ歩こう!
急いで洗濯物を干して外へ出た
右へ行くか左へ行くか
おもむくままに進んでいく
大きなお屋敷の敷地に
果樹がたわわになっている
八朔、柚子、檸檬
あの大きな実は朱欒かな
ごっくんと唾液を飲み込んだ
トコトコ歩く
民家を抜けて山の方へ
まだ紅葉が残る山々は美しい
一台の車とすれ違う
あれ?と思ったらジルちゃんだ
「あら!こんなところで!!」
「今、水汲みに行ってきたんよ」
こんなところで会えるなんてなんだか嬉しい
私も安産の滝まで行って水を一口頂き帰路へ
トコトコ トコトコ
来た道を歩く
もう家がすぐのところまで来たとき
ふと壊れかけた看板が目に入った
「ため池」とある
でも池など見えない
その先に小さな道があった
こんな道知らなかった
恐る恐る進んでみる
その小さな道は木々に囲まれ
落ち葉の絨毯で覆い尽くされていた
ざくぅ ざくぅ
落ち葉を踏み締めて進むと
その先に小さな池がひっそりとあらわれた
とても穏やかな水面に気持ちよさそうに水鳥が浮かんでいた
まるで絵本の中に迷い込んだかの情景に
しばしうっとりしながらも恐怖を感じた
30年近く住んでいてなぜ気づかなかったのか?
明日はもうあの池は消えているのかもしれない



