身をひそめろ、春が来る|山本茂伸
両手をぶらぶらさせながら、公園の階段を下りていく
上着がなくて体が軽い
黄砂と花粉に濁った空で、公園を取り巻く桜はピンク色に蕾を膨らませていた
桜の梢でパーンといのちが漲っている
春はある日を境に一斉に押しかける
無限の命を引き連れて、ザワザワとやってきては
古い命を引きずり連れ去っていく
「しっ、静かに、身をひそめろ、春が来るぞ」と
ひとりごちて、腰を屈めて木陰に逃げ込んでも
数秒後には蕾を見ている私がいる
春は生死の境が近づいてくる
このタイミングを逃すものかと
達磨さんが転んだのように
私が目を瞑っている時にそっと忍びよる
季節を数えるごとに、近づくのが上手くなり
音も立てず、気配を隠して確かに近づく
帰りの階段で後ろをサッと振り返った
花は明日の雨を待って咲く準備をしている
ヒヨドリは無言で枝に止まっていた



