未来忌|即興演奏を主題に

2月11日は吉野町公民館大ホールにて、池田克己命日記念イベント「第2回未来忌」でした。

「未来忌」で自作詩を朗読したメンバーが、最後のコンサートで演奏されたジャズピアニスト柴田コウメイの即興演奏をお題として詩を制作、ポエムポストに投稿しました。

順番は出演順です。

 

葉森月子|舞台の神さま

朝、会場に行くと
舞台にポスターが投影されていた
かっこいいー!
本番だ!!
そう!今日は本番なのだ!
舞台の飾り付けを手伝う
受付の準備する
舞台慣れしたメンバーたちが
テキパキと動く
小道具をバミり導線を確認し
自然とリハが始まる
ピアノとマイクのバランスを聞く
全体の絵を引きでみる
開演間際にさっと着替えて
ウィッグをパッとつけて
「皆さん開演前に記念撮影しまーす」と
言って回るプロ過ぎるMC
さぁ開演
昔は出待ちの舞台裏のなんとも言えない空気感が吐きそうなくらい怖くて
舞台にたどり着けない夢を何度もみた
でも今はそんな出待ちのも楽しめる
仲間と写真を撮る余裕もある
小道具に躓いた彼女のアクシデントさえ
みんなが羨ましがる

全てを終えた楽屋は
お菓子や食べかけのお弁当で散らかっているが
みんなの心は1つになっていた
舞台には魔物がいる
そして神様もいる
舞台の神様に
ありがとうございましたと
心の中でつぶやいた

 

久利摩紀子|2026.2.11

饒舌に運ばれる空気に
ル・シーフルの涙を垂らし
純粋な声が四角を回る

曇天のメランコリーが
涙腺の蓋を開け
龍門に生まれた詩人を偲び
嘯くことのない数多の才知

詩も言葉も
バカの前では
違わず等しい

言葉の塊は
宇宙から飛んできたのだろうか?
メシエにもわからない
異次元の銀河を私達は聴いた

ピアニストを撃たないでください!

 

梅田なみ|柴田コウメイ氏の即興演奏に寄せて

春を告げる祭の日
山から下りてきた霧が
煙のように町を包む
屋台の輪郭は滲み
子供のはしゃぐ声が残響のように広がる

白い袖の少女が振る鈴が空気を震わせ
霧が集まり一粒の雨に変わる

雨に紛れて 誰かの指先がアンダンテを刻んでいる
紅白の屋根に落ちる雫とリズムが重なっていく

雨は私の服を濡らし
身体に沁みこみ
皮膚の奥に入り込み
胸の底の渇いた砂に届いた

私は目を閉じ、渇きに沁みこむ水の感触を ゆっくりかみしめる

やがて雨は次第に強さを増し
静かだった音色もうねるように波打ち
転がる音の粒が 滴る雨と絡み合う

アレグロアッサンブレ

髪に 額に 唇に
打ちつける音の粒と雨を 全身で受け止めると

瞼の奥がつと熱くなり 温かな塊が目の奥から喉へと落ちていき 胸の砂を押し出す
濁った生ぬるい泥水が足先を伝い 
道路に流れたそれはすぐ 弾けた雨粒とともに消えていった

春を告げる祭りの日
町を洗い流した雨は  私の心も洗っていった

 

山本茂伸|白い駅で

用事を思い出せないまま私は駅に向かっていた
急がないと間に合わないことだけを握りしめて

海に近い駅には、小さな広場があって
自販機も、バケツも、水道から滴る水も
午後の光に包まれ揺れていた

冬の終わりの光は強い影を投げだし
広場の片隅に白い死を焼き付けていた

姿の見えない子供たちの声が駅を取り巻いている
微睡と混沌を背中に感じ、今がわからなくなった

無人の駅舎はとても白く滲んでいて
今を生きる人の影はなく
ベンチから見える窓には
オリーブの葉陰が揺れていた

目的地を見失った私は
適当な切符を買って、昏い改札を抜けた
海の見えるプラットフォームには
ただ遠い風が流れていた

線路が平行に曲がりながら海に近づいていく
単線が山陰に消えるところにぽっかりと雲が浮かんでいる
雲の下には雨のベールがかかり、プリズムのように光った

雨雲が近づいて来る
風が変わり、海鳥の声が消えた

「ペトリコールね」とささやく声が、耳元に温かい
確かに知っているが、体温しか思い出せないあなたがいる

雨が静かなざわめきが連れてきた
足元に撥ねる雨は光に踊る
冬の終わりの雨が二人を包んだ
女神の舌のように柔らかく冷たい雨が
耳の後ろをながれ、首筋を濡らす

光の粒が、駅に、屋根に、草花に飛び散っていく
光ながら落ちてくる雨はいつしか祝祭の雨に変わっていた

「もう苦しまなくていいのよ」
黒衣のあなたは雨と光のシルエットの中に、美しい輪郭を表した

暗雲に覆われ日が陰ると、闇が光にかわった
雨のリズムが大きく早くなり陶酔が二人を包み込む
重なるリズムに呼び出されるように夜の光が現れた

あたり一面に松明が焚かれ
ディオニューソスの祭りが始まる
雨音は踊りのリズムとなり陶酔へと二人を導いた
葡萄酒が供され、女たちは酩酊の中で踊り続けている
あなたの姿態は闇で輝き、人生の楽しさを味わっていた
この祭りではすべてが許されている
死と狂気と豊穣の祭り

あなたは私を踊りの輪の中に導いた
あなたの呼吸は早く、なまめかしい
汗ばんだ手が私を求めている
すべてを捨て一緒に踊って欲しいと
死と再生の踊りを

何故かわからず私はためらい
退屈な日常へと後ずさった
あなたの手が離れていく
軽やかなリズムが消えていく

闇が消え光があたりに満ち始める
頬を伝う雨、指先から落ちる雨が光を帯びる
雨雲はゆっくりと次の山に向かっていく
私は一人水平線に消える船を見ていた

何を捨てられないのか、なぜ捨てられないのか
飽きてしまった人生をまた生きていくのか

雨雲は町を潤すために山の方へと向かい
線路の軋むことがして、小さな電車が近づいてきた
今までに見たことのない青空が見えた

 

しばた友紀|傘

私の底には1枚の葉
流線型は550ミリ

葉を拾う
枝を握れば私の傘だ

何の役に立つものか

長靴は黄色

子供の姿をした何かが駆け回る
泥をはね
水面の空を蹴る
同じ傘をさしている

水源は雨
鼻欠け地蔵に泥団子

沖を漂う船は疫病
入江の町は呪詛の蔓延

肥ツボに落ちた私は
肥タンゴ
タンゴと呼ぶ声が聞こえ

 

2026年02月16日