きつね顔の神さま|山本茂伸
空の青がマゼンタに濁る3月
潮騒のリズムが風に消えていく午後
私は岸壁の上から海を眺めていた。
失敗の烙印が20個溜まったので、ポイントと引き換えに絶望をもらった。
鉛色の絶望に覆われた私は、釈然としない人生という錘を足に括りつけ
紺碧の海に身を投じた。
苦しみがさり、遠のく意識の中で海を照らす光が見える
すべての音が消えさり孤独の闇に包まれていく。
手にしたものと手放したものが私を取り囲んでいる。
その時、闇の中から光が生まれた
光は形になり、神さまにと変わった。
やはり神さまはいたのか、もう死後なのか
「神さま私はどうなるのでしょうか」と呟いた。
神さまは私に手を差し伸べながら
「大きい棺と、小さい棺どっちがいい」
と軽やかな声で聞いてきたので、顔を覗きこんだ。
リリックソプラノの声を持つ神さまは
目が吊り上がったきつね顔をしていた。
本来なら「小さい棺」を頼むところだが、
死んで気が大きくなった私は、「大きい棺でお願いします」と答えた。
神さまは軽い舌打ちの後に
「大きい棺か」と言いながらクルッと後ろを向き、
しっぽを振りながら光の中に消えていってしまった。
神さまと叫びながら、手を一杯に伸ばした時、意識は闇へと溶け、
何も掴めなかった手の感触だけが残った。
とてつもない頭痛とともに瞼に熱を感じた。
「気が付かれましたか」とリリックソプラノの声がする。
聞き覚えのある声に目を向けると、白衣を纏ったキツネ顔の神さまがいた。
ビロードのような手で私の手を包んでくれた。
何故か涙が頬を伝った。全身に温かいものがこみあげてきた。
生かされていると感じた。
小さな深呼吸を一つしてから
「小さい棺を選んでいたらどうなっていたのでしょう」と聞いてみた。
ほほ笑んだ神さまは、「さあ」と首を傾げた。
「これからの私の人生はどうなるのでしょう」と聞こうとした刹那
「私にできることはここまでです」といってクルっと後ろを向き
「生きることを味わってください」と軽やかに歌い
尻尾を振って神さまは病室を出て行った。
それからキツネ顔の神さまは私の前に現れなかった。



